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2024.04.09 犬の僧帽弁閉鎖不全症について|小型犬種でよく見られる病気

愛犬に「咳が増えた」「疲れやすい」「寝ている時間が長くなる」「呼吸が苦しそう」などの症状はありませんか?
このような症状が見られたら僧帽弁閉鎖不全症の可能性が考えられます。

今回は、犬の僧帽弁閉鎖不全症について症状や原因、治療方法などを詳しく解説していきます。

■目次
1.僧帽弁閉鎖不全症とは
2.症状
3.原因
4.診断方法 ・治療方法
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ

僧帽弁閉鎖不全症とは

僧帽弁閉鎖不全症は、犬においてよく見られる心臓病の一つです。心臓の左側に位置する僧帽弁は、左心房と左心室の間にあり、心臓が収縮した際に左心室から左心房への血液の逆流を防ぐ重要な役割を果たします。しかし、僧帽弁が何らかの原因で正しく閉じなくなると、血液が左心室から左心房に逆流するようになります。これが僧帽弁閉鎖不全症の状態を指します。

僧帽弁が正常に機能しなくなると、心臓内で血液の逆流が生じ、左心房が肺からの血液と左心室から逆流した血液で過剰に満たされます。その結果、心臓が徐々に大きくなり、心機能が低下し、肺水腫などの症状を引き起こすことがあります

症状

アメリカ獣医内科学会(ACVIM)は、犬の僧帽弁閉鎖不全症の進行度を評価するため、病状を5段階のステージに区分することを推奨しています。
この分類は、日本国内のほとんどの動物病院で使用されており、以下のように定義されています。

・ステージ A:現在心臓に問題がないものの、将来的に僧帽弁閉鎖不全症を発症するリスクが高い犬種

・ステージ B1:心雑音や僧帽弁の変形、僧帽弁逆流は確認できるものの、心臓の拡大は見られない

・ステージ B2:心雑音、僧帽弁の変性、僧帽弁逆流に加え、心拡大も確認される

・ステージ C:咳や呼吸困難などの症状が見られ、過去には肺水腫の発症経験がある

・ステージ D:標準的な治療に反応しない、末期の心不全兆候を示す

ステージA、B1、B2の初期段階では、咳や息切れなどの明確な症状が現れず、多くの場合無症状であるため、飼い主様がこの病気に気付くことは少ないです。そのため、定期的な健康診断や他の病気の治療の際に偶然発見されることがほとんどです。

僧帽弁閉鎖不全症が進行するにつれて、心臓内に血液が溜まり、心臓のサイズが大きくなります。この大きくなった心臓が気管を圧迫し、気管が刺激されて咳の症状が見られます。

さらに病気が進行すると、
息切れ
運動時の耐性低下(わずかな運動で息切れがしやすく、すぐに疲れる)
活力の低下
肺水腫による呼吸困難
などの症状が現れ始めます。

それらの明らかな臨床症状が出ている場合は、病気はすでに進行しており、治療が難しくなっています。そのため、僧帽弁閉鎖不全症では、早期発見と早期治療が極めて重要です。

原因

犬の僧帽弁閉鎖不全症の原因はまだ完全には解明されていないものの、下記のような小型犬種でよく見られることから、遺伝的な要素が関与していると考えられています。

・チワワ
・トイ・プードル
・ミニチュア・シュナウザー
・ポメラニアン
・ヨークシャー・テリア
・キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
・ミニチュア・ダックスフンド など

診断方法 ・治療方法

僧帽弁閉鎖不全症の診断方法としては、
聴診器を用いた聴診
レントゲン検査
超音波検査
心電図検査
など、いくつかの異なる方法で行われます。

聴診では、僧帽弁が正しく閉じないことによる血液の逆流が原因で生じる特徴的な心雑音(ザッザッという音)を検出できます。
レントゲン検査により、心臓の形状やサイズを具体的に評価し、肺水腫の有無もチェックできます

さらに、超音波検査によっては、僧帽弁の動きや厚み、血液の逆流の状態、心臓の収縮度などをリアルタイムで確認し、評価することが可能です。そのため、超音波検査は僧帽弁閉鎖不全症の診断において必須の検査です

中には、超音波検査をせず内服薬を開始してしまっているケースがあります。万が一、検査を行っていない場合、動物病院で検査を行い適切な内服を処方してもらうことを推奨します
僧帽弁閉鎖不全症の治療は病状のステージによって大きく異なります。

・ステージ A:現時点で心臓に異常が見られないため、治療を行う必要はありませんが、年に一度のレントゲンや超音波検査を受けることをお勧めします。

・ステージ B1:治療薬の投与はせずに、経過観察を行います。半年ごとにレントゲンや超音波検査を行い、病状の進行具合をチェックします

・ステージ B2:症状に応じて、血管拡張剤や強心剤を開始することが検討されます。

・ステージ C:血管拡張剤、強心剤、利尿剤を使用し、状態を安定させます。肺水腫によって呼吸困難が起こっている場合は、酸素投与による呼吸サポートも行います。

・ステージ D:症状の緩和を目的とした高用量の利尿剤や強心剤、血管拡張剤などを使用してQOLの改善を目指しますが、十分な治療効果を得られないことがほとんどです。緩和ケアや安楽死も治療の選択肢として検討される場合があります。

これらの内科的治療は、病気の進行をできるだけ遅らせる目的で行われるものであり、病気を根本から治療するものではありません
僧帽弁閉鎖不全症の完治を目指す場合は、僧帽弁形成術といった外科的手術が必要になります。

予防法やご家庭での注意点

現時点では確実な予防方法はありませんが、肥満を避けることが予防の一環として推奨されています。また、できるだけ病気の初期段階から治療を開始することで、病気の進行を遅らせることが可能です。

特に、高齢になると発症リスクが高まる小型犬を飼っている場合、飼い主様には定期的な健康診断を推奨します。

まとめ

僧帽弁閉鎖不全症は犬と暮らす飼い主様にとって、特に警戒すべき病気の一つです。この病気は徐々に進行していくため、愛犬に何らかの変化を感じたら、速やかに動物病院へ連れていくことをおすすめします。

当院では1.5次診療も行っておりますので、疾患に関わるご相談やセカンドオピニオンを受け付けております。気になることがございましたらお気軽にご相談ください。

大阪府貝塚市の動物病院「クローバー動物病院」
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