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2025.11.05 猫の甲状腺機能亢進症とは?| 症状・原因・治療法を獣医師が解説

最近、愛猫が「食欲旺盛なのに痩せてきた」「よく鳴くようになった」「落ち着きがなくなってきた」と感じたことはありませんか?

こうした変化を「年齢のせいかな…」と見過ごしてしまう飼い主様も多くいらっしゃいます。しかし、そのような症状はもしかすると「甲状腺機能亢進症」という病気のサインかもしれません。

この病気は、特にシニアの猫によく見られるホルモンの異常によって起こる疾患です。早期に対応しなければ命に関わる可能性もあるため、飼い主様の気づきが大切です。

そこで今回は猫の甲状腺機能亢進症について、特徴や症状、原因、治療法などをご紹介します。

■目次
1.猫の甲状腺機能亢進症とは?
2.症状
3.原因と診断方法
4.治療法と予防のポイント
5.まとめ

 

猫の甲状腺機能亢進症とは?

甲状腺機能亢進症とは、首の前方に位置する「甲状腺」という器官が過剰にホルモンを分泌することで、体の代謝が異常に活発になってしまう病気です。ホルモンの分泌量が増えすぎると、体のさまざまな機能が過剰に働いてしまい、健康状態が大きく崩れてしまいます。

この病気は特に10歳以上のシニア猫に多く見られ、13歳を過ぎると発症のリスクがさらに高まるとされています。加齢とともに発症率が上がるため、注意が必要です。

また、甲状腺ホルモンの異常によって心臓や腎臓に負担がかかることがあり、心疾患や腎不全、高血圧といった合併症を引き起こすケースも少なくありません。

 

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症状

猫の甲状腺機能亢進症では、以下のような症状が見られます。

・食欲はあるのに体重が減る
・活動的になり落ち着きがなくなる
・よく鳴くようになる
・毛づやが悪くなり、被毛がバサバサする
・下痢や嘔吐がみられる
・水をたくさん飲み、尿の量が増える(多飲多尿)

また、脳や神経にも影響が出るため、落ち着きがなくなったり、興奮しやすくなったりといった性格の変化が生じることもあります。

 

原因と診断方法

猫の甲状腺機能亢進症の多くは、甲状腺にできる良性の腫瘍(腺腫)が原因で発症します。この腺腫はホルモンを調節する機能が失われており、制御不能な状態でホルモンを分泌し続けてしまいます。まれに、悪性の腫瘍(甲状腺癌)が原因となることもありますが、猫では非常に稀です。

診断ではまず、血液検査によって甲状腺ホルモン(T4)の濃度を測定します。T4の値が高ければ、甲状腺機能亢進症の可能性が高まります。さらに、猫の全身状態を把握するために、以下のような追加検査を行うことがあります。

血液生化学検査:内臓機能を確認します。
尿検査:腎機能を評価します。
超音波検査(エコー):心臓や腎臓の状態を詳しくチェックします。

なお、甲状腺機能亢進症は初期には症状がわかりづらいため、特に10歳以上の猫には年1〜2回の健康診断をおすすめします。定期的な検診によって早期発見が可能となり、治療方針の選択肢も広がります。

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治療法と予防のポイント

猫の甲状腺機能亢進症には、主に以下のような治療方法があります。

 

<内科的治療(薬物療法)>

抗甲状腺薬を用いて、過剰なホルモンの分泌を抑えます。毎日の投薬が必要であり、定期的な血液検査や通院が欠かせません。副作用が出ることもあるため、継続的な経過観察が重要です。

 

<外科的治療(甲状腺摘出術)>

手術によって過剰なホルモンを分泌している甲状腺を摘出します。根本的な治療として有効ですが、麻酔のリスクや術後の低カルシウム血症など、手術特有のリスクもあります。猫の年齢や健康状態に応じて慎重な判断が必要です。

 

<放射性ヨウ素治療>

放射性ヨウ素を投与して、異常な甲状腺細胞だけを選択的に破壊する治療法です。再発率が低く高い治療効果が期待できます。ただし、実施できる施設が限られているため、選択肢として検討する場合は事前に情報収集が重要です。

 

<食事療法>

ヨウ素の含有量を制限した療法食を与えることで、ホルモンの合成を抑える治療です。薬が苦手な猫や年齢、体力的に他の治療が難しい場合に選択されることがあります。ただし、他の食事を併用すると効果が薄れるため、継続的な食事管理が求められます。

 

このように、それぞれの治療にはメリットやデメリットがあり、猫の年齢や性格、健康状態、生活環境などを総合的に考慮して選択することが大切です。治療を始めた後も、甲状腺ホルモンの数値だけでなく、心臓や腎臓の機能も定期的に確認しながら慎重に経過を追っていくことが必要です。

また、予防については、残念ながら甲状腺機能亢進症そのものを完全に防ぐ方法は確立されていません。そのため、早期発見・早期治療を徹底することが重要です。ほかにも、定期的に健康診断を受診し、少しでも異変を感じた場合にはすぐに動物病院へ相談しましょう。

 

まとめ

猫の甲状腺機能亢進症は、シニア猫に多く見られる病気で、進行すると心臓や腎臓などの重大な臓器にも影響を及ぼします。初期症状が分かりにくく、「元気すぎる」「食べているけど痩せて見える」といった変化を年齢のせいと見逃してしまうことも多くあります。しかし、早期に発見して適切な治療を行えば、健康的な生活を取り戻すことは十分可能です。

大切な愛猫のためにも、体調や性格の変化を見逃さず、定期的な健康診断を習慣づけていきましょう。飼い主様の気づきが、猫の命を守る第一歩となります。

当院では、猫の甲状腺機能亢進症をはじめとした内分泌疾患の診療に力を入れており、適切な検査と治療方針のご提案を行っています。気になる症状がありましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

 

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