2025.02.03 【獣医師監修】犬の乳腺腫瘍の症状と治療|健康診断で見つかる早期発見のメリット
犬の乳腺腫瘍(乳がん)は乳腺組織に発生する腫瘍で、良性と悪性の両方が存在します。
「腫瘍」と聞くと心配になる飼い主様は少なくありませんが、早期に発見し適切な治療を行えば、多くの場合で改善や治癒が期待できます。そのため、日頃の観察や健康診断が非常に重要です。
今回は犬の乳腺腫瘍について、症状、治療方法、予防方法、そして術後のケアなどを詳しく解説します。
■目次
1.乳腺腫瘍の基礎知識
2.症状と発見のポイント
3.診断・検査について
4.治療方法と選択肢
5.予防方法と対策
6.術後の生活とケア
7.まとめ
乳腺腫瘍の基礎知識
犬の乳腺は左右に5対、計10個あり、乳腺組織とそれを保護する脂肪や結合組織で構成されています。乳腺腫瘍はこの乳腺組織に発生する腫瘍で、「良性腫瘍」と「悪性腫瘍」に分けられます。
良性腫瘍はゆっくりと成長し転移がほとんどありませんが、悪性腫瘍は急速に大きくなり、リンパ節や肺に転移する可能性があります。特に中高齢のメス犬に多く見られ、トイプードルやダックスフントといった犬種では発生リスクが高い傾向があります。これは、乳腺がホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)の影響を受けやすいためです。
症状と発見のポイント
乳腺腫瘍の主な特徴は、胸やお腹にしこりができることです。しこりは犬自身に痛みや違和感を与えることが少ないため、見逃されることが多いです。飼い主様が気づくきっかけとして、以下のようなポイントに注目してください。
・胸やお腹に触れると小さなしこりが感じられる
・胸やお腹の皮膚がボコボコしている
・胸部が以前よりも張って見える
これらの変化を早期に発見するためには、日常的に胸からお腹にかけて優しく撫でることでセルフチェックを行うことが重要です。また、健康診断では腫瘍が小さいうちに発見されることが多いため、症状が見られなくても定期的に動物病院を受診しましょう。
診断・検査について
乳腺腫瘍が疑われる場合、まず血液検査やレントゲン検査を行い、全身状態や転移の有無を確認します。特に悪性の場合、肺への転移が多いため、画像診断は非常に重要です。また、針生検(細い針を用いて腫瘍の一部を採取し、細胞を調べる検査)が行われることもあります。
乳腺ラインにしこりがある場合でも、それが乳腺腫瘍でない可能性もあるため、診断には慎重な検査が必要です。例えば、脂肪腫や肥満細胞腫など、異なる性質の腫瘍である場合もあります。
治療方法と選択肢
乳腺腫瘍の治療では、手術による切除が第一選択となります。腫瘍の場所や数に応じて、切除範囲は以下のように異なります。
<腫瘍が1箇所の場合>
その乳腺と周囲のみを切除します。
<複数箇所に腫瘍がある場合>
片側全体、または両側の乳腺全てを切除します。
手術後には、摘出した腫瘍を病理検査に出し、腫瘍の性質や転移の可能性を詳しく調べます。また、抗がん剤治療やホルモン療法が補助的に行われる場合もありますが、これらは手術と併用することで効果を発揮します。
悪性の場合は、転移や再発のリスクが高いため、術後も定期的に健康診断を受け、乳腺やリンパ節、肺の状態を確認することが大切です。
予防方法と対策
乳腺腫瘍の予防には、避妊手術が有効です。特に、初回発情が来る前に避妊手術を行うことで、乳腺腫瘍の発生リスクを90%以上低減できるという研究結果があります。また、2回目の発情前までに避妊手術を行うことが推奨されます。
さらに、前述したように日常的に胸からお腹にかけて撫でることで、セルフチェックを行い、異変を早期に発見する習慣をつけましょう。また、バランスの取れた食事や適度な運動を心がけ、健康的な生活習慣を維持することも予防につながります。高品質なドッグフードを与え、脂っこいおやつや人の食べ物は控えるようにしましょう。
術後の生活とケア
乳腺腫瘍の手術後は、傷の回復と再発防止のためのケアが必要です。傷口を舐めたり引っかいたりしないように、エリザベスカラーや保護服を着用させ、傷口に腫れや出血、膿などがないか毎日チェックしてください。特に獣医師から指示がない限り、傷口を洗浄したり消毒したりするのは避けましょう。
術後は体力が低下し、食欲が落ちることが多いですが、消化に良いフードや嗜好性の高いフードを与えることで回復をサポートできます。また、抜糸までは激しい運動を避け、軽い散歩程度に留めるのが安全です。術後の体調が落ち着いたら、徐々に運動量を増やしていきましょう。
再発防止のためには、定期的に乳腺やリンパ節、肺への転移の有無を確認する検診が必要です。また、避妊手術を同時に行うことで、乳腺腫瘍の再発リスクを抑える効果が期待できます。
まとめ
犬の乳腺腫瘍は、早期に発見し適切に治療することで予後を大きく改善できる病気です。日頃から胸やお腹を優しく撫でるセルフチェックや、定期的な健康診断を欠かさないことで、腫瘍の早期発見につながります。
さらに、避妊手術や生活習慣の見直しも有効な予防策です。愛犬の健康を守り、より長く幸せな時間を共に過ごすために、日々のケアを大切にしていきましょう。
大阪府貝塚市の動物病院「クローバー動物病院」
診療案内はこちらから