2026.07.06 腎臓病や心臓病があっても麻酔はできる?動物の麻酔リスクと安全管理について
「腎臓が悪いから麻酔は危険ですよね。」
「心臓病があるので、手術はできないと思っています。」
診察室で、このようなご相談をいただくことは少なくありません。
確かに、腎臓や心臓に持病がある犬や猫では、健康な子に比べて麻酔のリスクは高くなります。しかし、それは「麻酔ができない」という意味ではありません。
近年の獣医療では、術前評価や麻酔薬の選択、モニタリング技術の進歩によって、持病を抱えた動物でも安全性を高めながら麻酔を行えるようになっています。
重要なのは、「持病があるかどうか」ではなく、「現在の状態を正しく評価し、その子に合わせた麻酔を計画できるかどうか」です。
腎臓病の子の麻酔で最も大切なのは「血流」を守ること
腎臓は血液をろ過する臓器です。
麻酔中に血圧が下がり、腎臓への血流が不足すると、一時的に腎機能が悪化する可能性があります。
そのため当院では、腎臓病の子では特に以下の点を意識しています。
- 術前の脱水を改善する
- 麻酔中の血圧を継続的に監視する
- 必要に応じて輸液速度や昇圧薬を調整する
- 麻酔時間を可能な限り短縮する
「麻酔薬そのもの」が腎臓を悪くするというよりも、麻酔中の循環状態をいかに安定させるかが非常に重要なのです。
心臓病では「心臓に頑張らせすぎない」ことが重要です
心臓病と一言でいっても、病気によって麻酔管理は大きく異なります。
- 弁膜症
- 肥大型心筋症
- 拡張型心筋症
- 不整脈
例えば、輸液を多く入れすぎると肺水腫を起こしやすい子もいますし、逆に血圧が下がりすぎると全身への血流が不足することもあります。
そのため、以下のような項目をリアルタイムで確認しながら、必要に応じて麻酔の深さや循環管理を調整します。
- 心拍数
- 血圧
- 心電図
- 酸素飽和度
- 呼気終末二酸化炭素濃度(ETCO₂)
「同じ麻酔」を全ての動物に行うのではなく、その子の心臓に合わせた管理が重要です。
高齢=麻酔できない、ではありません
「15歳だから麻酔は難しいですよね。」
これもよくいただくご質問です。
もちろん年齢を重ねることで持病は増えますが、麻酔リスクを決めるのは年齢そのものではありません。
実際には、以下のような項目を総合的に評価して判断します。
- 腎臓や肝臓の機能
- 心臓の状態
- 呼吸機能
- 貧血の有無
- 血圧
- 全身状態
当院でも高齢の犬・猫が麻酔を受ける機会は少なくありませんが、十分な術前評価を行った上で治療を実施しています。
「麻酔をしないリスク」も忘れてはいけません
麻酔にはリスクがあります。
しかし一方で、以下のような病気や状態では、治療を先延ばしにすること自体が命に関わる場合があります。
- 子宮蓄膿症
- 尿路閉塞
- 腫瘍
- 重度歯周病
- 異物誤食
私たちは常に、「麻酔のリスク」と「治療しないリスク」のどちらが大きいのかを考えながら、飼い主様と一緒に治療方針を決めています。
当院が麻酔で大切にしていること
麻酔に「絶対安全」はありません。
だからこそ、当院では一つ一つの工程を丁寧に積み重ねることを大切にしています。
術前には血液検査や画像検査を行い、必要に応じて追加検査をご提案します。
麻酔中は心電図・血圧・酸素飽和度・呼気終末二酸化炭素濃度・体温などを継続的に監視し、小さな変化も見逃さないよう努めています。
そして、手術が終わった後も「麻酔から安全に覚めるまで」が治療の一部と考え、覚醒後の呼吸や循環状態、痛みの管理まで丁寧に行っています。
最後に
腎臓病や心臓病があるからといって、必要な治療を最初から諦める必要はありません。
もちろん健康な子より慎重な管理は必要ですが、現在の状態を正しく評価し、その子に合った麻酔計画を立てることで、多くの犬や猫は安全に治療を受けることができます。
「麻酔が心配だから…」と悩まれている飼い主様こそ、ぜひ一度ご相談ください。
私たちは病気だけを見るのではなく、その子の今の状態を丁寧に評価し、できる限り安全な治療をご提案いたします。
監修:獣医師|院長 藤田 理公