2025.07.10 犬の前十字靭帯断裂について|原因から症状、手術方法までをまとめて解説
「最近、愛犬が片足を浮かせて歩いている気がする」「急に足を引きずるようになった」などと感じたことはありませんか?もしかすると、それは「前十字靭帯断裂」という膝の重大なトラブルが発生しているかもしれません。
前十字靭帯は、膝の関節内にある靭帯で、骨同士をしっかり支えながら、歩いたり走ったりする動きを安定させる役割を担っています。この靭帯が損傷したり断裂したりすると、犬は強い痛みを感じて脚をかばうような歩き方をします。放置すると関節炎やQOLの低下につながるため、早期に治療を行うことが大切です。
今回は犬の前十字靭帯断裂について、原因や症状、治療方法から予防策などを詳しく解説します。
■目次
1.前十字靭帯断裂とは?発症メカニズムと原因
2.部分断裂と完全断裂の違い
3.症状
4.診断方法
5.治療方法
6.予防法
7.まとめ
前十字靭帯断裂とは?発症メカニズムと原因
犬の膝関節は、大腿骨(太ももの骨)、脛骨(すねの骨)、膝蓋骨(膝のお皿の骨)から構成されています。この関節が正常に動くためには、関節内にある前十字靭帯と後十字靭帯、外側を支える膝蓋靱帯などの靭帯が安定した位置で正しく機能している必要があります。
中でも、前十字靭帯は大腿骨と脛骨を繋ぎ、膝がねじれたりズレたりするのを防ぐ働きをしています。この靭帯が切れてしまうと、膝関節が不安定になり、犬はスムーズに歩けなくなってしまいます。
<発症リスクを高める要因>
前十字靭帯断裂は、すべての犬に起こりうる病気です。特に以下のような大型犬種は、遺伝的に発症リスクが高いとされています。
・ロットワイラー
・ブルドッグ
・ラブラドール・レトリーバー など
また、肥満は膝への負担を大きくするため、前十字靭帯断裂のリスクを高める大きな要因です。さらに、成長期の若い大型犬や、関節の支持力が低下しやすいシニア期の小型犬でも発症が見られます。ほかにも、激しいジャンプや急な方向転換を伴う運動も、靭帯への負担が増す原因となるため注意が必要です。
部分断裂と完全断裂の違い
前十字靭帯断裂には「完全断裂」と「部分断裂(不完全断裂)」の2種類があります。
・完全断裂:靭帯が完全に切れており、膝が不安定になります。
・部分断裂:靭帯の一部が損傷しているだけで、症状があいまいで見逃されることもあります。
部分断裂は、慢性的な跛行や関節の腫れなどを引き起こす可能性があり、放置すると関節炎などの合併症が進行しやすくなります。そのため、軽度の症状でも動物病院での診察を受けることが大切です。
症状
前十字靭帯が断裂した直後は、強い痛みから脚を床につけることができなくなります。特に完全断裂の場合には、脚を浮かせて三本脚で歩くような仕草が見られることが多いです。
痛みは数日でやや和らぐ場合もありますが、慢性的になると足をかばうような歩き方になり、膝関節の動きもぎこちなくなります。
進行すると、膝に炎症が起こり、変形性関節症や関節炎を引き起こす場合もあります。特に体重の重い犬や活動量の多い犬では、こうした二次的なトラブルのリスクも高まります。
診断方法
前十字靭帯断裂の診断には、以下のような検査を組み合わせて行うのが一般的です。
<歩様検査>
歩き方や立ち方に異常がないかを確認します。
<触診>
「脛骨前方引き出し試験」や「脛骨圧迫試験」によって、膝関節の安定性を評価します。これは、関節内のズレや異常な動きがあるかどうかを調べるための重要な検査です。
<レントゲン検査>
画像診断により、関節の隙間の異常や骨の変形、関節内の炎症などを確認します。
<関節鏡>
より精密な評価が必要な場合には、関節鏡を用いて関節の内部を直接観察することもあります。
治療方法
前十字靭帯が完全に断裂している場合、自然治癒する可能性はありません。そのため、痛みを緩和し、関節の安定性を回復させるためには外科的治療が基本となります。
一方、手術が難しいケースでは、内科的治療によって症状の緩和を図ることもあります。治療の選択は犬の年齢や体の状態、飼い主様のご希望に応じて総合的に判断します。
<各治療法のメリット・デメリット>
■内科的治療
消炎鎮痛薬を使用して痛みを抑えるほか、ケージレストや運動制限を徹底して膝への負担を減らします。主に、高齢で麻酔リスクが高い犬や、心臓病などの持病がある犬に選ばれる方法です。
ただし、根本的な治療にはならず、長期的に関節炎の進行が懸念されます。
■外科的治療
靭帯の損傷を補う手術によって、膝関節の安定性を取り戻すことができるのが大きなメリットです。施術には、TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)やTTA(脛骨粗面前進化術)といった手法があり、犬の状態に合わせて選ばれます。術後はリハビリを行い、徐々に運動能力を回復させます。
ただし、麻酔や感染症のリスク、費用の面での負担があるため、十分な説明と納得を得たうえで実施されます。
もし何か疑問がありましたら、遠慮なくご相談ください。
予防法
前十字靭帯の断裂を防ぐためには、日頃から以下のような管理を行うことが大切です。
<体重管理>
前十字靭帯への負担を軽減するうえで、大切なのは適正体重の維持です。前述したように肥満は膝関節への負荷を大きくし、靭帯に過度なストレスがかかる原因となります。犬の体型に合った食事管理と定期的な体重チェックを心がけることが重要です。
<運動管理>
適度な運動は関節を健康に保つために欠かせませんが、急なジャンプや激しい方向転換を繰り返すような動きは前十字靭帯断裂の原因になります。運動の際は、犬が興奮しすぎないように注意し、急な負荷がかからないような遊び方を工夫しましょう。
<サプリメントの活用>
関節の健康維持には、グルコサミンやコンドロイチン、EPAやDHAといった成分を含むサプリメントの活用も有効です。これらは靭帯や軟骨の修復を助け、炎症を抑える効果が期待できます。ただし、サプリメントはあくまで補助的な役割のため、使用する際はかかりつけの獣医師と相談のうえ、犬の状態に合った製品を選びましょう。
<定期的に健康診断を受ける>
前十字靭帯断裂は、早期に対応すれば犬の痛みや、関節炎の進行を防ぐことができます。そのためには、日頃から犬の歩き方を観察し、異変があればすぐに動物病院を受診することが大切です。加えて、年に1~2回程度の健康診断を受けておくと、見逃しやすい初期の異常も早期に発見できます。
まとめ
前十字靭帯断裂は、犬にとって大きな苦痛を伴うだけでなく、治療が遅れると関節炎や歩行困難といった深刻な問題へと発展する可能性があります。しかし、日頃から体重管理や適度な運動、定期的な健康診断を意識することで、多くのトラブルを予防できます。
もし、歩き方に違和感が見られる場合は放置せず、すぐに動物病院に相談しましょう。早期の対応が、犬の健康と幸せな生活を守る一番の近道です。
当院では、膝関節の状態を詳しく確認するための検査や、症状に合わせた治療のご提案を行っております。少しでも気になることがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
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大阪府貝塚市の動物病院「クローバー動物病院」
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